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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)11047号 判決

原告

森本寿子

被告

国際自動車株式会社

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金二〇〇万円とこれに対する昭和五二年一一月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  請求の発生(以下、本件交通事故という。)

(一) 日時 昭和四六年八月一九日午前六時四六分ころ

(二) 場所 東京都目黒区上目黒二丁目一三番三号先交差点

(三) 加害車(甲車) 普通乗用自動車(タクシー、品川五五あ一五六六)

右運転者 訴外竹内洋至(以下、訴外竹内という。)

(四) 加害車(乙車) 自動二輪車(目黒区た四六九六)

右運転者 訴外亡上沼正司

(五) 被害者(甲車の乗客)原告

(六) 態様 甲車と乙車は前記場所において衝突し、その衝撃により原告は傷害を負つた。

2  責任の原因

被告は、観光バス、ハイヤー、タクシー等による旅客運送を業とする株式会社であり、同社の従業員(タクシー運転手)である訴外竹内が被告の業務の遂行中一時停止の標識を無視して進行した過失により前記交通事故を発生させ、原告に後記傷害を与え、これにより損害を生ぜしめたのであるから、被告は使用者として損害を賠償すべき義務がある。

3  権利の侵害

原告は、昭和四六年八月一九日、本件交通事故により頭部その他に外力を受け頭部、頸椎打撲、右膝関節打撲症の傷害を負い、頭部、頸部、肩、上肢の疼痛、シビレ感及び眩暉、嘔気、嘔吐発作が現れ、その後「変形性背椎症、頸椎捻挫、外傷性膝関節症」、「頸肩腕症候群」の診断を受けて治療を続けてきたが、昭和五二年五月一三日本件交通事故に基づく左側頭骨骨折が発見され、これに伴う左内耳機能障害の存在が認められた。

4  損害

原告は前項記載のように本件事故により左内耳機能障害の傷害を被り、その治療は現在に至るまで続くも更に快癒せず、これによる精神的苦痛を慰藉するには金二〇〇万円を下廻らない。

5  結論

よつて、原告は被告に対し本件不法行為に基づく後遺障害に関する損害賠償(慰藉料)金二〇〇万円とこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五二年一一月三〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因第1項の各事実は認める。

2  同第2項の事実中、訴外竹内が一時停止の標識を無視して進行した過失は争い、その余は認める。

3  同第3項の事実中、本件交通事故により右膝関節打撲症の傷害を被つたことは認め、その余の事実は不知。原告の左側頭骨骨折に伴う左内耳機能の障害は本件事故と相当因果関係はない。

4  同第4項の事実は不知ないし争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因第1項(事故の発生)の事実は当事者間に争いがない。

二  被告は観光バス、ハイヤー、タクシー等による旅客運送を業とする株式会社であること、同社の従業員(タクシー運転手)である訴外竹内は被告の業務の遂行中に本件交通事故を発生させたことは当事者間に争いがない。

弁論の全趣旨によれば、本件交通事故の発生につき訴外竹内に一時停止の標識を無視して進行した過失があることが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

三1  成立に争いのない乙第二号証の一及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、前記本件交通事故時、前記加害車(甲車、タクシー)の後部座席に坐つていたが、前記加害車(乙車、単車)との衝突と同時に前部及び後部座席の間に転倒し膝、下腹部を打ち、立ち上つたとき右タクシーが発進進行したので制止して止めさせた際、その急制動の措置によりつんのめり前部座席の背部に左額部を打ちつけさらに後方に転倒して後頭部を打つたことが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。

2  いずれも成立に争いのない甲第三ないし第六号証、同乙第一号証、同第二号証の一、二、同第三号証、同第五号証の一ないし一一、同第六号証、証人鈴木達夫の証言と弁論の全趣旨によりいずれも責正に成立したと認められる甲第一号証及び甲第二号証の一ないし八、証人鈴木達夫、同加藤祐司の各証言及び原告本人尋問の結果を総合すれば、原告は本件交通事故日である昭和四六年八月一九日右事故により受傷し、同月二五日某医療機関にて右膝内関節腫脹について穿刺排液した後、昭和四六年九月一日から六日まで(実通院二日)訴外上目黒診療所で右膝関節部挫傷の診断病名下で治療を受け、昭和四七年四月ころ同訴外診療所に頭部、頸椎、右膝打撲症の病名下で通院し、次に、昭和四九年一二月一五日訴外東京共済病院内科で初診を受け、遊走腎の病名のもとに治療を受け、同年一二月一六日から同月二五日まで入院し、昭和五〇年九月一〇日からは遊走腎のほか胆のう症(デイスキネジー)、ベーチエツト病、眩暉発作、自律神経失調症の病名のもとに通院し、昭和五二年五月二日から六月二九日まで入院し、通院期間を置いて同年八月五日から同年一〇月七日まで入院したほか現在まで通院治療を続けていること、昭和五〇年九月一一日右同訴外病院整形外科で初診を受け頸肩腕症候群、メニエール症候群、同五一年八月には変形性腰関節症、同五二年五月には変形性腰椎症の病名のもとで治療を受けたこと、昭和五二年五月一三日右同訴外病院耳鼻咽喉科で初診を受け、左内耳機能障害の病名の診断を受けたこと(甲第三号証の内科カルテには鈴木医師により昭和五二年五月一四日「岡本医師、交通事故の時に左内耳に障害をきたしたのだろうとのこと」「昨日の耳鼻科受診の結果、昭四六年交通事故の時内耳伝導障害(例えば内耳骨の骨折)を起したのではないか」との記載、甲第二号証の三の耳鼻咽喚科カルテ昭和五二年八月二〇日欄に「側頭骨骨折?、縦骨折か?」の記載がある。)、原告は、昭和四六年一〇月ころから頭部、頸部、肩、上肢の疼痛、シビレ感、眩暉、嘔気、嘔吐などの発作があらわれ雨降り時期には悪化するという症状に悩まされ続けて来た、と訴えていること、以上の事実が認められ、他に右認定を左右する証拠はない。

以上認定の事実によれば、原告は左内耳機能障害を有し、右障害は左側頭骨骨折を原因とするのではないか、同骨折は本件交通事故に基づくのではあるまいか、との医学上の疑いをもたれたことが認められる。しかしながら、原告の左内耳機能障害が本件交通事故に因るものであるとの高度の蓋然性を認めるためには右認定事実及び甲第一号証、証人鈴木達夫の証言では未だ足りず、他にこれを認めるに足る証拠はない。

四  よつて、原告の本訴請求はその余の点を判断するまでもなく理由がなく失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 稲田龍樹)

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